河畔林の輝き

秋声

【秋声】は秋の河畔林を描いたものですね。

『そうです。秋の気配が山から降りてくる、静かな時間と空間を描いています。』

確かに秋真っ盛りといった色彩ではないがひんやりとした秋の澄んだ空気と秋の薫りが鼻腔の奥にかすかに感じるようです。どのような思いを込めたのでしょう。

『秋と言っても秋真っ盛りの紅葉ではなく、秋の声が聞こえてくる時間の流れを表しています。左奥に赤い紅葉が見えますが、あとは全体が淡い色で描いています。絵の中心がある絵ではなく、全体が主役というか、ドビュッシーの音楽のような音の広がりを色彩で表したかった。忍び寄るというか、染み渡ると言ったらいいのか、空間にじんわりと滲んでくる感じの色彩を求めました。』

主役がいない。つまり、みんな主役なのですか。

『絵ですから、ムーブメントを考慮していて、省略して動きを作っていますが、描きたいものは河畔林の植生の多様性ですのですべてが関係性を持って存在する。ジグソーパズルのように記号化されたピースが意味合いを持って響き合う、という世界を描きたかった。』

生物多様性ですね。

『そう、動物は描いていませんが、潜んでいることが感じてもらえれば良いのですが。』

気配はしますね。動物、鳥。

『野鳥が鳴くことで、静けさに気付かされることがありますね。矛盾するようですが、静けさを表していると同時に色彩で交響曲のような音楽を奏でたいとも思って描きました。』

観ていると色々な想いを浮かべながら視点が移動していきます。

『先程も言いましたが、ムーブメントを描き込む度合いや明度、彩度、筆勢などで作っていますから、目線は画面のあちこちに動きますね。河畔林の植生を楽しみながら画面を目で散策といったところでしょうか。』

光の表現ですが、風のように漂っているように見えます。

『下地に水金箔を押しています。光の角度の違いで反射して画面から光が出ているように見えるかもしれません。描くにあたって、光源の位置は設定せず、光を閉じ込めてしまう感覚で描きました。河畔林を歩いていると見るものすべてが輝いて宝石箱をひっくり返したかのように感じます。そんな思いも入っています。』

秋声部分
画廊一花
北海道函館市山の手3-3-11
mail gallery-ichigehotmail.co.jp
0138-56-4567